• ちいさな暮らしのおすそわけ

ちいさな暮らしのおすそわけ

No.９　とりあえずの魔力

人類最古の道具は石器だと習いました。石を打ち砕いてナイフや矢じりを作り、獲物を捕まえたり食べ物を調理するなどして祖先は生き延びてきました。それから300万年？ 自分の暮らしを見回すと、なんとたくさんの道具に囲まれて生きているんだろうと思います。

断捨離やミニマリストブームの波にのっかり、私も定期的に物を減らしたり片付けたりをくり返していますが、ちょっと油断するとものすごい速さで家の中に物があふれていきます。仕事のものも含めて、出ていく量よりも入ってくる量が多いからでしょうが、気づかいないうちにじわじわと物の量が増えていくのが恐ろしいところです。

そうしてふとした時に、「爪切りが見当たらない」「ハサミどこだっけ」など、あるはずの場所にものがない、ということが起こります。できるだけそうならないように普段から、「とりあえずここに置く」というのを減らそうと思っていますが、宅配便がきたり、ちょっと家族に呼ばれたりして作業を中断することもしばしば。

そうしてとりあえずとハサミを置く、あとで収納しようと床に物を置く、たまったら隣の部屋にまとめて持っていこうと物を積み上げるなど、「とりあえず借金」が５個も６個たまり、やがて数十個にもなるとにっちもさっちもいかなくなり、「んーーーー、とりあえず、お茶でも飲んでから！」とすべてを先送りに。

「とりあえず」とは、なんと恐ろしい魔力を秘めた言葉でしょうか（笑）。

この魔力を発動させない最善の対策は、持ち物をできるだけ減らすこと。ただ、物を減らすのにもそれなりにエネルギーが要りますし、やっぱり必要な物もあり、そう簡単になんでもかんでも手放せません。そこで、暮らしの中でできるだけ、「とりあえず」という言葉を使わないようにしてみようと、数年前から心がけるようになりました。

コートをすぐハンガーにかける、買ってきたトイレットペーパーをすぐ棚に置く、ダンボールを開いてすぐたたむ。ひとつひとつのことは時間にすると10～20秒もかからないことなのですが、このわずかのことを先送りして積み上げると、最後に壮大な魔力と対峙しなければいけない日（大掃除）が必ずやってきます。

300万年前の時代からみるとはるかに生きやすくなっているはずの現代ですが、今は今なりに、日々を快適に生きるためにたくさんのちいさな心の戦いをしているような気がする私なのでした。

2024年2月19日　ユキンコ

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